2026年8月3日
めちゃくちゃきつめの納期だった原稿を一ヶ月近く前倒しで納品する。やばすぎる。なにがやばすぎるって、この間、自然と体がパソコンに向かうようになっていること。暑くて外に出ることができず、体調が悪いので酒も飲まず、そうなるとやることなくて暇でしかたなく、気づくとパソコンに向かって仕事しているのである。やばい。非常にやばい。完全に休みかたを忘れてしまっている。
だからというのでもないけれど、思いつきで九月の頭にオーストラリアに行くことになった。向こうにいる友人に会いに行くためである。吉川トリコの代表作ってことになっている「グッモーエビアン!」に出てくるヤグとあきさんと同じ名前の夫婦が、かれこれもう20年以上オーストラリアに住んでいるのに、一度も会いに行ったことがなかった。なぜってオーストラリアに行くならほかにもっと行きたいところがあったから。
しかし、我々も年を取った。行きたいところはだいたい行き尽くしたかんじがあるし、なんせこの円安である。私が好きなパリやロンドンや香港やニューヨークやソウル、どこもかしこも金がないと楽しめない都会である。
ソウルなんてあんなに行きたくて行きたくてたまらなくて、何度行っても行き足りるということがなく、次はいつ行こうとつねに考えていたくらいだったのに、なぜか、なんなのか、このところまったく行く気がしなくなっている。そんな時間も元気もやる気もないというのが正直なところだ。老いだろうか。やばすぎる。
で、オーストラリアである。ヤグとあきさんが暮らすのは、ゴールドコーストの下のほうにあるバイロンベイという小さな町である。スピリチュアルでオーガニックでサーフィンでヒッピーでアーティスティックでクリエイティブなかんじの人たちが集まるオーストラリアでいちばんヒップでホットでクールな町だそうだ。世界中から流行に敏感かつ意識的な若者が集まり、クリヘムとかも住んでるらしい。アメリカでいうポートランドみたいなことなんだろうか? なんだかようわからんが、友だちが住んでいるとかじゃないかぎり行くこともないだろうからと楽しみにしている。特にオーストラリアでしたいことはないが、コアラだけはなにがなんでもぜったいに抱っこすると決めている。
昨日、夫と二人で近所のお好み焼き屋に行った。その周辺に何軒か、外国人のやっているカレー屋が乱立していたので話をふってみると、鉄板を挟んで向こう側に立った店主が、あからさまにデマとわかるようなヘイト言説をまきちらしはじめた。びっくりした。そういうことを、一見の客に言っていいと思っている、その軽率さに。
しかし、私も大人になった。以前だったら、かっとなってすぐさま店を飛び出していたところだったが、
「制度を利用するのはだれにも認められた権利である」
「税金のすべてが外国人に使われているわけではないし、外国人も税金を払っている」
「難民認定なんて、そんなにかんたんにおりない」
などとデマ言説に逐一反論していると、向こうはヒートアップするばかり。
「あの人たち、酒は飲むし、煙草は吸うし、もうとんでもないんですよ!」
ついには店主が興奮したように叫んだ。
酒なら私も飲んでいるし、夫は煙草を吸っている。なにも悪いことはしていないではないか。
「あんまりそんなに大っぴらに外国人差別的なことを言わないほうがいいですよ」
耐えきれずに私が言うと、
「あそこの店にはこないだ国際警察がきてましたけどね!」
と店主が吐き捨て、それきりになった。気まずいなか、急いでお好み焼きを平らげた。
「国際警察って、なんであの人にそんなことがわかるんだよ」
店を出てすぐ、夫が笑っていたが、私は笑う気になれなかった。
どうすればよかったんだろう。わからないが、すぐそこまできている、という感触があった。どうすればいいんだろう。
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