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2026年6月11日

日記を書きはじめて気づいたのだが、公開を前提にしていると、現在進行形でやっている仕事のことをあまり詳しく書けないのだな。そうなるとやっぱり公開しない用の日記を書かなければならなくなる。 ちなみにいま私は10年手帳にも一行日記を書いているし、仕事用手帳にも日記がわりの進捗状況を書いている。そんなに日記を書いてどうする。そんなに刻みたいか。日々のよしなしごとを。生きてきた証を。 日記と言っておきながら10日にあったことを書くのだが、東京へは会議に出席するために日帰りで行っていた。 今年の四月から朝日新聞の書評委員をつとめていて、隔週で会議があるのだ。ふだんはオンラインで参加しているが、二ヶ月に一度ぐらいのペースで現地参加したいと思い、今回は二回目の参加になる。 書評委員は20名。政治とか歴史とか倫理学とか文化人類学とかAIとか、各分野の専門家がそろっていて、アベンジャーズみたいだと思いながらいつも話を聞いている。アベンジャーズの話すことはときどき私には難しすぎてついていけないこともあるが、しかしやはりとても面白い。 書評で取りあげる本は、入札制で決まる。会議室に八十冊ほどの新刊が集められ、その中から希望する本に各自〇をつけるのである。花丸はひとつだけ、◎がふたつまで、〇は好きなだけ。何度か会議に出席しているうちに、だんだんと「この本はあの人とかぶりそうだ」というのがわかってくるので、いかに相手をだしぬくか、戦略が必要になってくる。 この日の会議で波紋を呼んだ本が一冊あった。いろいろと差し支えがあるのでタイトルは伏せるが、ものすごく下世話な内容の本で、しかしタイトルを見た瞬間「書評するかしないかは別として絶対に読みたい!」と思い、〇をつけた。 いつも高尚で難解な本を書評しているアベンジャーズがまさかこんな本に手を出すとは思わず、また、こんな本に花丸をつけるのはさすがに恥ずかしくて、〇で落札できるだろうと考えてのことだったのだが、いざ蓋を開けてみると、同じことを考えている人がほかにも大勢いた。表からはみだすぐらいたくさんの〇がついているではないか。こんなのはじめて見た。 が、ひとりだけ◎をつけていた委員がいて、鮮やかにかっさらっていった。この本に◎をつけられるなんてすごい、かっこいい、お見事、策士、戦略勝ち!と会議室が騒然となった。 当該の本は、自分でお金を出してまで買いた...

2026年6月10日

 10時台の新幹線を予約していたので、早めに家を出る。新幹線の改札を抜けてから予約の時間を確認したら、なんと30分以上も時間がある。いつもそう。せっかちなのと心配症なので早め早めに行動をし、待ちぼうけを食らう。これまでに駅のホームや空港のベンチでぼうっと待っていた時間をすべて合わせたら一週間ぶんぐらいあると思う。  ホームにあがるとちょうど東京行きの「こだま」が停車しており、自由席が空いていそうだったのでえいやと飛び乗った。東京まで三時間、車内でゆっくり仕事すればいい――と思ったのもつかのま、本来予約していた「のぞみ」より東京駅到着が三十分もうしろにずれこむことが発覚して焦る。  表参道の美容院を予約してあったので、その前にどこかでランチでもしようと思っていたのだ。しかし、そんな時間はとてもなさそう。しかたなく品川で降りて、駅の構内でさっと昼食をすますことに。  東京駅より品川駅のほうがちいさくて落ち着く。東京駅は人も多く、なんだかみな殺伐としていて、ちょっと立ち止まろうものならあちこちから殺気やら舌打ちやらぶつかりやらねめつけやらが飛んできておそろしい。品川駅ではいまのところそんな目に遭ったことがないので、できれば品川駅で降りたいのだけど、出版社とかそれ関係の仕事だとあんまり利用する機会がない。  品川駅で食べたうどんは、おそらくセントラルキッチンのものなのだろうが、ふつうにおいしかった。ほとんど立ち食いのような雰囲気のお店で、会社員らしき人たちがものの五分ほどでずるずるうどんを啜りあげ、さっと立ちあがって次々に会計を済ませていく。合理的で効率的、安価で素早い。そのうえに「なるべくおいしく」が乗っかってる。全部盛りじゃんと思いながらありがたくいただいた。旅人のための食事ってこういうものなんだろう。食事というよりエネルギーチャージというかんじ。 「こだま」のせいで(「こだま」のせいというか完全に私のせいなのだが)ロスした時間を立ち食いで巻き返し、山手線で原宿までむかう。せっかくだからとひさしぶりに竹下通りを歩いてみたら、日本人がほとんど見あたらず、はからずも海外旅行した気分になる。海外のどの街に行っても観光客しかいないような通りがあるけど、竹下通りもまさにそんな雰囲気。オリエンタリズムを刺激するような土産物屋が両脇に並び、東京名物「KAWAII」がてんこ盛りになって...

新刊「裸足でかけてくおかしな妻さん」出るよ!

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  「小説新潮」で一年半連載していた「裸足でかけてくおかしな妻さん」が本になりました。 できれば去年のうちに出したかったのですが、なんせこれまで最長の連載期間で、調子に乗って800枚以上も書いちゃったものだから、「このままじゃ本の値段が相当高くなってしまう」「だれが買うんだそんなもの」と担当氏に 脅され 提言されて200枚削ったあと、「まだここも削れる」だの、「ここはもうちょっとどうにかならんか」だの、書籍の担当に加え、連載時の担当と文庫の担当までやってきて、三人がかりで よってたかって 力をあわせてエンピツを入れられ、ぴえぴえ言いながら改稿していました。 いやしかし、編集者の 言いなりで 指示通りぜい肉をそぎ落としていけばいくほど小説がどんどん磨かれていくのがわかって、なんかほんとうに むしゃくしゃ 感動した。だってほんと改稿前はもっさりしたダサい子だったのを、その道の賢者たちが大改造ビフォーアフターで清潔感のあるイケてる女にしてくれたんだよ。 ひどくない?この辱めをどうしてくれるの!!だよ。 よってたかって傷をあぶりだし埃を叩いてくれた おかげでこんないい小説になりました。ありがとね!!!! お嫁さん養成ギプスなんか嚙みきってやる――私たちの奇妙な生活の行き先は 肝心の内容は、担当氏が考えてくれたこの一行につきる。 ヘル日本で生きているとなんかしらんまにつけられてませんか、お嫁さん養成ギプス。自分でもいやだいやだと思いながら、ふとした折に顔を出すのがお嫁さん養成ギプス。物心ついたころから手足に重りがつけられていて、外したつもりでいてもいつのまにかまたついていたりするあれですよ。フェミニズムの本を貪るように読んで意識を改革したつもりでいても、何度でもまた装着しているあれ。もしかしたら最近の若い人はそうでもないのかもしれないが、昭和生まれの保守的な地方で生まれ育った私にとってはまだまだ根深い問題で、だからその手の因習とか規範とかに囚われている人を書きたい気持ちがある。そうすることでだれかを解放したいし自分も解放されたいんだと思う。お嫁さん養成ギプスなんて嚙みきってやりたいよ。ねえ、そうだよね? 物語は、人気小説家の「先生」の子どもを妊娠した楓が、その妻・野ゆりと岐阜の田舎で共同生活をするところからはじまります。楓と野ゆりには、ぜひ小説で出会ってほしいのでここ...

どうしても直木賞が欲しい

 なんと一年以上もブログを放置していた。昨年は新刊が出なかったのと(あ、文庫は出たわそういえば)、あまりに忙しすぎて金にならない文章を書いている暇がなかったのである。 いまだって暇なわけではないのだけれど、この年末年始にいろいろがんばった&スケジュールの整理をしてちょっと余裕がある状態なので、こうしてひさしぶりにブログを書こうとしている。 というのも、ここ数日、村山由佳さんの新刊『PRIZE―プライズ―』(以下「プライズ」とする)を夢中で読んでいたのである。 「どうしても、直木賞が欲しい」 賞(prize)という栄誉を獰猛に追い求める作家・天羽カインの破壊的な情熱が迸る衝撃作! 天羽カインは憤怒の炎に燃えていた。本を出せばベストセラー、映像化作品多数、本屋大賞にも輝いた。それなのに、直木賞が獲れない。文壇から正当に評価されない。私の、何が駄目なの? ……何としてでも認めさせてやる。全身全霊を注ぎ込んで、絶対に。 この概要だけ読んで、ひー!こわい!とならない出版関係者なんているんだろうか。自分には関係ないことだと涼しい顔をしていられる人がいたとしたらその人は嘘つきか、殿上人か、あるいはよほど自分に自信があるかのどれかにちがいない。 文学賞がほしい。認められたい。褒められたい。売れたい。 その他にも、うまくなりたいとか、面白い小説が書きたいとか、できれば一生書き続けたいとか、小説家が抱く欲望にはさまざまあるけれど、外からやってくるもの=承認を求める気持ちがひときわ強いと、めちゃくちゃしんどいことになる……のは小説家でなくともなんとなく想像がつくだろう。 承認欲求というのはだれしもが持っているものだし、それが原動力となってがんばれることもあるだろうから、一概に悪いものだとは言えないと思うのだけど、小説家のような「売れ」「認め」「褒め」が目に見える形でおもてに出る職業ってそういえば他にあんまりない(あるとしても芸能人とか漫画家とか?)。小説家として一冊でも本を出すと、いやおうなく俎上にのせられ、ほかの作家と比較されたり、自分でもつい比較したりしてしまい、自動的に承認欲求がふくらんでいくようなシステムになっている。『AKIRA』で巨大化していく鉄雄に金田が手を焼いていたけれど、小説家の中には金田と鉄雄が共存していると考えてもらっていい。 著者の村山さんご自身が「自分の...

「コンビニエンス・ラブ」発売しました!

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新刊が出るときと賞の候補になったときだけ更新するブログと化していてすみません。このところ目まぐるしく毎日がすぎていき、気づいたら長い夏が終わり秋がきていました。山周賞は落選しましたが、現在ふたたび「あわのまにまに」が山風賞の候補になっています。「山と風、つまり嵐ってことじゃん! 山風賞ぜったいほぴい!」と十年ぐらい前、熱心な嵐ファンだったころに騒いでいましたが、その嵐もいまや活動をお休みしてるし事務所までなくなってるし、なんだなんだというかんじでございますね。 とはいえ正味のところ山風賞は文芸の中でも華やかなエンターテイメント大作が受賞しているイメージなので、あまり自分には関係ないかなあとも思っていたのですが、KADOKAWAから刊行した作品だからひいきして候補にぶちこんでもらえたのでしょうか(とかこういうことを書いたら担当氏に怒られるかもしれない)。 なんにせよ文学賞はお祭りなので、候補になったのをきっかけにまた新しい読者の目に触れたり手にとってもらえるようなことになればうれしいかぎりです。落選したところで作品の価値が損なわれるわけではないということを、過去二回の経験で身にしみてよくわかっているので、落選のプロとしてはなんかもう余裕ですらある。 そうしてやっと本題に入るのですが、中編小説「コンビニエンス・ラブ」がU-NEXTから発売中です。「100分で読める」がコンセプトのレーベル【100 min. NOVELLA 】の第三弾として発売されています。新書サイズのかわいらしい本なので(値段も990円とかわいい!)書店で見かけたらレジまで持っていってくださいね。 五人組ダンスボーカルユニットに所属する愛生という男の子が主人公の青春恋愛小説です♪ 私自身がこれまでに男性アイドルや男性芸能人、またはそれに類するものを追いかけてきた経験から思うところすべてを詰め込みました。推したい人たちと推されたい人たちがどうやったらしあわせになれるのか真剣に考えながら。だれかを推したことのある人、そのことにどこか後ろめたい気持ちでいる人に読んでもらえたらと思うけれど、そこになんの疑問も抱いていない人にもできれば読んでもらいたい。あとは推される側の人たちにも。 ちょうど一年前のいまごろに書いていた小説で、その当時はボーイズグループ戦国時代といわれてはいたものの、まさかゆるがぬ帝国を...

『あわのまにまに』が山本周五郎賞の候補に選ばれました

  くさっている。なにやらとにかくわからんがくさっている。四月のなかばあたりがとくにやばくて、友人の作家や編集者と飲むたびに愚痴りまくっていたら、「新刊が三刷になって山周賞の候補にもなってなんの不満があるのだ」といわれてしまった。いやほんとに自分でもやばいと思うのだけれど、あのころの私やばかった。いまも完全に抜け切れたわけではないけれど、「エゴサするな!」「読書メーターなんか見るな!」とさんざん叱られたので、読書メーターとブクログを見なくなった。それだけでかなり調子がいい。いやしかし、読者からの反応は作家にとっては華、なによりのご褒美である。まったく目にしないのはそれはそれでさびしいのでTwitterとインスタのエゴサだけは許してほしい。まあまあ食らうんだけどな。とくにインスタ。ついかっとなって返信しそうになるのだが、「それだけはやめろ」ときつくいわれているのでやらない。 釣りタイトルからいきなり愚痴をかましてすみません。文学賞の候補になったからってみんながみんな浮かれているわけじゃないとおわかりいただけたでしょうか。今回候補のおしらせをいただいたときは、うれしいという気持ちよりも安堵のほうが大きかった。前回お呼ばれしたのに今回お呼ばれしなかったらそりゃ落ち込むだろう。文学賞のおそろしさというものを身をもって実感しているところである。 放送映画批評家協会賞で最優秀主演女優賞を受賞したケイト・ブランシェットが、賞レースというものの形式自体が家父長制的だと批判していたけれど、いやまったくもってそのとおりだと思うし、賞を権威だとする感覚はいまの時代にはフィットしないのではないかと個人的には思う。 だけれども、そりゃケイト様はいいよ、もうアカデミー賞もらってるじゃないっすか、押しも押されもせぬ世界的な大女優じゃないですか、そりゃそういうことも言えちゃいますよねと正直思わないわけでもなかった。揺るがぬ足場に立ってこそようやく賞レース批判ができるようになるのであって、そのためにはまず賞をとらなくちゃいけないというこの矛盾!  本が売れないといわれてひさしいこの時代、どんな形であってもなにかの作品に光をあてる試みはありがたいものである。 デビュー20年目、 これまでに刊行した25作品、いくつか スマッシュヒットはあったけれどさして大きなヒットもなく、ほとんどが光を浴びない...

「あわのまにまに」をご紹介いただきました

・2023年2月25日 TBS「王様のブランチ」特集コーナー ・2023年3月8日 「anan」BOOKコーナーに瀧井朝世さんによるインタビュー掲載 ・2023年3月9日 日本経済新聞夕刊 大矢博子さんによる書評 ・2023年3月15日 朝日新聞夕刊 野波健祐記者によるインタビュー掲載  https://book.asahi.com/article/14862429 ・2023年3月17日 カドブン 瀧井朝世さんによる書評掲載  https://kadobun.jp/reviews/review/entry-47921.html ・2023年3月22日 BOOKウォッチ  https://books.j-cast.com/topics/2023/03/22020727.html ・2023年3月23日 「週刊新潮」に石井千湖さんによる書評 ・2023年4月1日 中日新聞朝刊 世古紘子記者による著者インタビュー掲載  https://www.chunichi.co.jp/article/665617 ・2023年4月7日 「文學界」5月号「むらむら読書」にて犬山紙子さんによる書評エッセイ ・2023年4月9日 読売新聞朝刊に小川哲さんによる書評 ・2023年4月9日 東京FM「 Street Fiction by SATOSHI OGAWA」内の 「最近の一冊」  Street Fiction by SATOSHI OGAWA|2023年4月9日『最初の1冊、最近の1冊』|AuDee(オーディー) ・2023年4月10日 女性自身 著者インタビュー掲載 ・2023年4月16日 北海道新聞朝刊 「加藤千恵の新しい朝、新しい本」にて加藤千恵さんによる書評  ・2023年4月20日 第36回山本周五郎賞候補作に選出 ・2023年4月22日 読売新聞夕刊 著者インタビュー掲載 ・2023年4月28日 朝日新聞朝刊 「文芸時評」にて古川日出男さんによる書評 ・2023年4月29日 「リアルサウンドブック」立花ももさんの連載「今月のおすすめ新刊小説」にて紹介  https://realsound.jp/book/2023/04/post-1315572.html ・2023年5月10日 「クロワッサン」(マガジンハウス)瀧井朝世さんの連載コーナー「文字から栄養 よりすぐり...